この部屋の、この引き出しを開ける頃には、色々な整頓が付いていると思う。だからこそ、消える前に手紙を書いておくよ。
ボクは君の中にあって、君も、誰も知らないボクだよ。
カオルは今、いくつになったのだろう。いくつになっても、ボクにとっては大事な人に変わりは無いよ。
ボクが出来上がったのは、水族館へ行ったあの日。意識があったわけでは無いけれど、深い海に似た所で僕は漂っていた。
その海は、君の幸せで満たされていた。
でも、ある時から急にそれが枯れて、とうとうボクが顔を出した。
君は優しすぎた。
何もかもを許して、憎むべき対象を哀れんだ。憧れるものには目を輝かせて見入るくせに、君自身を遠くに置いた。
内へ向けるものが多すぎた君は、とうとう君自身され哀れむようになった。だからボクは、誰にも気づかれないように君の外へと顔を出した。
意識が飛ぶことは、きっともうなくなっているはずだ。
……あの時、死のうと思っただろう。
もう、カオルが頑張る必要は無いんじゃないか、と思ってボクは出て行かなかったんだ。辛かったよね。本当にごめん。
でも、その後から、やっと。やっと、本当にやっと! 君の心に偽りのない愛と幸福が注がれ始めた。少しずつでいいから、その温かい水で、ボクを沈めて居て欲しい。
ボクは誰かに危害を加える存在ではないけれど、君を想えば《どんな者でも喰らう》と思う。それは出来るなら、やらないほうがいいものだ。
着飾る君は、素敵だった。けれど飾り気のない笑顔こそが、最大の宝飾になる。
その笑顔を君の中で感じながら、ボクは深い青色でゆっくりと眠りについていたい。
幾久しく。
君に、愛とロマンスと、それから守護があらんことを。
とこしえの愛を込めて 君のオルカより。