10

 奥の部屋に入っていきなり殴られた。「あ」と自分の漏れた声が、他人の声みたいに聞こえる。床に倒れ込んで、ばたばたと四つん這いで逃げようとした。クラスではしょっちゅう行われていた行為。ああ、顔が腫れたらどうしよう。明日、バイトなのに。まずい状況になっているくせに、頭の中に思い浮かんだのはその程度のことだった。
「何でオレがここに居る? って言いたげだな」
 殴られた衝撃に頭を揺らしていると、胸ぐらを掴んで顔を近づけてきた。愉快そうな瞳は、蛇みたいにらんらんとしている。リオみたいな綺麗な輝きではなく、探していた獲物を遂に見つけたと悦んでいる光だった。
「最近友達から聞いてさ。この辺出入りしてる、同高のやつが居るってハナシ。ちょっと調べたらお前なんだもんな! めっちゃウケたわ」
 仮眠ベッドではなく、部屋の広さに不釣り合いなダブルベッドに変わっていた。だがあえてなのか、革張りっぽいソファーに引き倒される。ああ、そうか、ここなら血が出ても、染みないから……。馬乗りのような姿勢にされて、頬を張られた。鼻の奥が急に水っぽくなって、唇の上あたりに垂れてきた。鼻水かと思ったら錆臭い。この暴虐に耐えるにはどうしたらいいのだろうと藻掻いていると、部屋の扉が、乱雑な音を立てた。
「……何しに来た?」
 扉が閉まる前に、ツカツカとこちらに向かってきたのは宇深だった。金本の言葉を無視して、ソファーから俺を拾ってベッドへと移す。鼻血を出す俺にそっと手を添えた。
「食ってやるから」
 そう言われて、心が少し軽くなる。心の緩みがそのまま、目の緩みになって涙が出てきてしまった。金本のはただの暴力だ。このコミュニティでやることではないし、ここは学校の延長線上でもない。
「みーくん、……!」
 鼻血を指ですくって俺の唇に塗った。いちごジャムを指で掬って塗るみたいな仕草に見えて、背中がぞくっと震える。食べる時と舐める時の半々くらいの力加減で、宇深は俺の唇を食み始めた。溢れてくる涙も、音を立てながら舌で掬う。
「なに? そんな仲良しだったわけ?」
 突然にキスし始めた同級生を見れば、混乱すると思う。宇深はそこも含めて、手助けしてくれているのかもしれない。金本は俺をいたぶるつもりだったのに、予定が狂ったみたいな気分になっているだろう。
「ん、ふっ……。み、ぃくん」
 我ながら、甘えるような声が出たと思う。ただの鉄臭い物体が、甘さを孕んでくるのを感じながら、舌を絡ませた。すぐに互いの中心が膨れてくるのが分かる。そうだ、俺、みーくんに食われたくて仕方ないんだった。俺からみーくんのものに腰を擦り付けた。へこへこと不格好な動きを繰り返しているだけだったけれど、それに答えるように、みーくんも布越しに密着してきた。
「あんまり煽んないで」
 みーくんの、明らかに余裕をなくして欲情している顔をみたせいで、下腹がうずいた。この人、こんなに可愛い人だったっけ。今なら、……みーくんのものを挿れられたら、食べているって実感が持てるかもしれない。リオが俺を食ったみたいに……。
 ベッドの近くにあるサイドチェストを手繰り寄せて、みーくんが中にあるものをいくつか取り出した。そこに色々あったんだ、と思いながら見ると、ローションとコンドーム、見慣れない指サックみたいなものがあった。リオが使っていたインナーボールみたいな、派手なピンク色をしている。何で今、取り出したんだろう、とぼんやり眺めていた。みーくんは手早く、指サックみたいなものを中指に装着した。コンドームを人差し指と指サックにまとめて被せた段階で、何をしようとしているのかを想像できてしまった。
「なに、やだっ、……!」
 起き上がろうとしたところを、金本に抑え込まれた。両手を頭の上に上げられて、頭の上から覗き込んで来る。逆さまに映る金本をみると、単なる危害をくわえてやろうという雰囲気ではなくなっていた。
「続けろよ、おもしろそーじゃんそれ」
 俺の上で、金本とみーくんが睨み合っている。みーくんは無言のまま、ゴムの上からローションをたっぷりかけて、俺の蕾に押し込んだ。
「あっ、やだぁッ」
 ぐにぐにと動かして、俺の弱いところを目指して侵入してくる。中でぐっと内壁に押し付けられたかと思うと、指サックのスイッチが入る音を感じた。途端、振動音と共に、中で何もかもが震えて溶けていく感覚に襲われる。
「ああぁッ、あ、あ、あ、やぁあ――!」
 振動にくわえて、みーくんが指を曲げたり、押し込んだり、ずりずりと細かく擦り上げる。腰を逃して強制的な快楽から逃げようとしたけれど、みーくんはそれも見通したように追いかけてきた。ヴヴヴ――と絶え間なく振動する音が生々しい。細かい振動が、足の指先まで伝っていく。
「っあ、ぁあ! まって、あああぁッ!」
 足の指が丸まってしまうくらい、力が入ってしまった。腰が浮いて、角度がついたところを狙って指を出し入れされる。ゆっくりと引き抜かれて勢いよく奥を付いたかと思うと、穴の縁だけに触れるように抜き差ししたり、……色々な動かし方で俺が一番感じるところを探しているみたいだった。
「ひ、やらぁ、へん、変なるぅ!」
 前立腺近辺をぐちゅぐちゅと、執拗にこね回されて俺は悲鳴みたいな声ばかり上げた。ばれちゃう、ここがダメだってばれちゃう。そしたら、みーくんは絶対ここばっかり狙う……!
「なって。そしたらちーのここから、蜜がいっぱい出るから」
 みーくんは俺の芯に舌を這わせて、鈴口の溝に溜まった先走りを舐め取る。舌先でくすぐられるような刺激と、中から溶かされる刺激で、下腹部は今までにない熱を持ち始めていた。
「あぁっ、あ、あ、やぁ、んァあ、〜~~~!」
「うっわ、エロ……」
 金本の声が降ってきて、身体が変に反応する。息継ぎのタイミングで金本の表情が見えてしまった。いつもの下卑た表情というよりは雄の臭いを目一杯滾らせて俺の姿を凝視していた。
「あ、ぁ、ぁひ、いぃ、あああぁ、――ッ!」
 ドクッ、と心臓が鳴ったのかと思った。ぎゅうぎゅうと中がうごめいて、中のひだがみーくんの指にむしゃぶりついているのが分かる。浅い息遣いと喘ぎを繰り返しながら、俺は射精し続けている状況だと気付いた。
「ふ、ふぅ、ふっ、……!」
 熱が落ち着かない。みーくんの指先の物はまだ振動していて、快楽の波の幅を小さくさせることなく長く襲いかかってくる。鼓動に合わせて、熱がびゅる、びゅる、と溢れていく。みーくんはじっくりとそれを舐め取って、練乳みたいと呟いた。
「っあ、……!」
 みーくんの指が抜かれて電源が切られたかと思うと、すぐさまみーくんの膨張したものが突き立てられる。棒みたいに固くて、マグマみたいに熱くて、期待で中が縮んでしまう。
「うわ、マジでケツに入れるの」
 その声に、金本がすぐそばに居たことを思い出して赤面する。同級生にセックスの現場を見られることなんて、普通じゃない。俺の顔を間近で覗き込まれて恥ずかしいのに、気にする余裕なんて無い。
 みーくんは、奴に対し取り立てて何かを言ったりはしなかった。黙って見てろ、という圧だけは俺でも感じた。金本は生唾を飲んで、俺の腕を抑え続ける。
 ゆっくりと一番奥まで差し込まれる。そのまま、ノックするような動きで、みーくんの芯が俺の中を突いていく。
「は、はぁっ……! みぃくん、それぇ……!」
 先ほどの激しい振動よりもゆっくりした動きのはずなのに、形が分かってしまうくらいにぴったりしていて、みーくんの物が俺のどこを擦ったり突いたりしているかがはっきり分かってしまう。
「なぁ、《今日のミッション》決めたわ」
 頭上から降ってきた声は嗜虐性を隠しきれていない瞳を歪ませる。さっき、のあちゃんたちが金本のことをドSっぽいって囃し立てていたけれど、本当にそうだと思う。
「〈オレらにご奉仕しましょう〉」
「……!」
 そう唱えられたかと思うと、頬を再び打たれた。奥歯と頬肉、前歯と唇がぶつかって切れた感覚がする。口の中に血の味が広がって、止まりきっていなかった鼻血がまた出てきたのを感じる。
「奥までくわえてみろよ」
「んぐ……!」
 寝転んだまま上を向く状態で、猛ったナイフをねじ込まれた。
「ッハ! お似合いだわ」
 髪の毛を掴まれて、喉奥に押し付けられる。自分の物より長くて太い。同い年なのにこんなに差があるのはなんでなんだ? 屹立したものは、血管が浮き出ていて……みーくんのものとも違う。何度も喉奥を突かれる。熱したナイフみたいな鋭さを感じて、反射的に身体が跳ねた。喉の肉を削がれているかと思うくらい、強く抉られる。
「ぐっ、ん゛ッ、うう、ンゥ!」
「ッてめ、締めるなバカ!」
 喉の中に直接ぶちまけられる。引きずり出されたかと思うと、勢いよくまた打たれる。貧血みたいにくらっと来るダメージだった。口の中に血と精液が混ざって広がる。ひどい味がして咽せるたび、金本が愉快そうに笑う。
「ひっ、……ぐすっ、う、……!」
 俺にとって、何も嬉しくない。コミュではお互い利があるようにと考えて、思いやりある関係を持とうとしているだけに辛かった。夏休み前まで受けていたいじめは、心を氷水に晒しつづけるのと同じだったんだ。今まで少しは我慢できると思っていたけれど、それは麻痺していただけで、……。今、夏休みの間に暖を取ってしまったから、この仕打があまりにも辛いんだ。
 激しく咳き込んでいると、いつの間にか髪を優しく撫でる手があった。
「みーくん……?」
 意識が朦朧とする。宇深が、俺の血を指で拭って……。舌の上にある金本の精液を、優しく指で掻き出しているようだ。
「もったいない」
 ぬるりとしたものが、顎や唇、鼻のあたりをくすぐる。俺の血や涎、涙を丁寧に舐めているんだと分かって、無性に嬉しくなった。もったいないって言ってくれた。俺みたいなものから出たものを、大切に舐めちゃってくれてるんだ。
「莉比斗。お前、何しに来たの」
 聞いたことのない、みーくんの声だった。低くて、怒っていて……。いつも表情が読めなくて、感情が見えないのに。そんな人が怒ると、結構恐ろしいのだと知る。
「半端者」
 みーくんが、怒りを露わにしているのを初めて見たかもしれない。もしかして、写真部に金本が来たことも、宇深は望んでなかった……? みーくんは、……。
「ちー。お前の好きな事、しよう」
「う、うぅ……」
 頭が回らないけれど、みーくんの優しい手付きにすがる。でも優しいのは手だけだった。未だに俺の中に埋め込まれている楔は雄々しく膨らんでいて、緩やかだった律動が次第に激しくなっていく。
「みぃ、く、あんッ! は、んあぁ!」
 派手な音を立てながら、身体の奥の奥まで引っ掻き回していく。みーくんの短い息が聞こえてきて、汗が俺の腹に落ちる。指サックでいじめられたところと同じ場所を、何度も貫かれた。
「ちぃ」
 普段よりも少しまろやかな呼び声で、身体中が過剰に跳ねる。どろどろに甘やかされているような、そういう行為だった。全身の肉が柔らかくなる。中から溶けて、今、俺の肉を口の中に入れてもらったら溶けていけそうな気がする……。
「っは、はあ、ァ……!」
 深くて大きな波に、腰が震える。心臓が太鼓にみたいに、ドクッ、ドクッ、と鳴っている。さっきよりも蠢くように中が動いていって、みーくんが中で弾けたのが分かった。ゆっくりと引き抜かれながらキスされる。中に残った熱のせいか、じっくりと煮込まれているような気分がした。
 カチャッと軽い音がしたのは、それとほとんど同時だった。扉が開く。するりと入ってきたのはのあちゃんとリオだった。
「な、んで、ふたりとも……」
 息も絶え絶えのタイミングで、全然声にならなかった。掠れている声が情事であることを余計に露わにしている気がして、顔を背ける。
「ん~……。ちーが食べられてるトコ、見たくって」
 リオがそう言うと、のあちゃんもクスクスと笑う声が聞こえてくる。こんな、真っ最中に割り込んでくるなんて想像もしなかった。
「イカれてんな、マジ」
「お互いのして欲しいこと、したいことを知っておくのは結構マジメに大事なんだよ?」
 それらしいことを言っているけど、結局俺がダメになっているところを眺めたいのは変わらない。そんなの、恥ずかしいに決まっている。脚を閉じてもじもじとしていると、金本にひっくり返された。
「ハッ、見られて興奮してんのか?」
「あっ、やぁ、やだぁ、ああッ」
 後ろから乱暴に突き刺される。みーくんとのセックスの余韻を上塗りしようとするような、獣の交わりに似た何かだ。激しく腰を打ち付けられるせいで、乾いた音が部屋中に響く。
「オラ! 女どもに見られながら、メスみたいに鳴け、この!」
「んあ゛、ああぁ! おぐ、むり、あ゛っ!」
 明らかに苛々とした声と俺の悲鳴じみた嬌声が混ざる。がくがくと激しく揺さぶられて、嵐の中に放り込まれたみたいだ。辛いはずなのに、奥から迫ってくる快楽の大波が近くに来ていることを察知する。押しつぶされるような抜き差しに、俺の中が吸い付くような動きをし始めている……。俺の意識からは切り離された、別の生き物みたいになっていった。
「ちー。舌だして」
「えぁっ、み、くんッ、んぅ……!」
 口の中を甘く溶かすようなキスをされて、頭が余計にぼうっとする。自分の唾液とみーくんのを丁寧に混ぜる舌の動きにもっと欲しくなる。
「ん、んんっ! んァ、あ……」
 身体の力が抜けて余計に敏感になっていった。金本に乱暴されて辛かった圧力も、どんどん快楽に変換されていく。金本の肉棒が急激に馴染んできて、何をされても気持ちよくなってくる。
「……舐めて」
 みーくんのはすっかり復活していて、雄の臭いを押し付けてくる。余裕がないのか、無理矢理気味に口へ挿し入れてきた。
「ぇむ、んっ、んぁ゛ッ! ハァッ、ぁ、あ、みーく、ンっ」
 敏感になった舌と上顎を擦り上げて、おかしな気持ちを加速させていく。口の中に入っていて、一番食べているって感じがしそうなのに。喉まで擦られているせいか、今の口はただ気持ちよくなる穴と同じものなに思えてしまう。
「あ~~〜~、イラつく! てめぇ、勝手にヨくなってんじゃねぇ!」
 金本が身体の中にある回転数を上げて、腰を振る。ぐじゅ、ぶちゅ、どちゅ、と下品な音が次々に反響して、俺は無様に涎を垂れ流しながら喘いだ。呂律も回ってないし、全然考えられない。ただ、目の前の気持ちいいことを追いかけるだけになっていく。
「んんぁッ! あ、イッてう、い、あ、ああ、んぐ、ぅ、う、うう゛ッ!」
 獣みたいに穿たれて、尻を突き出した間抜けな姿勢で、好き放題犯されている。腕で身体を支えながら、みーくんのを喉奥までくわえるのに精一杯だった。上でも下でも、雄に貫かれている。ずっと絶頂を行き来しているせいで、中がバカになっちゃっていった。
「ん゛ぁ、あああぁ、ンンッ、う、あぁ――!」
 途切れ途切れに精液を吐いて、俺の中は金本のものを必死に搾り上げて次の熱を欲していた。もう出ないのに。ああ、中が欲張ってる。恵んでほしくて、もっとちょうだいって蠢いている。
「まだ、やめねぇッ、オレの、美味いんだろ!」
「ヒ、あっあっあ! やらぁ、でてる、でてるぅう!」
 暴力的な快楽から逃げたくて、でもみーくんに頭を固定されていて身を捩るだけになってしまう。視線だけあちこちにやると、サイドチェスト近くの壁側に立つ女子達の姿が目に入った。
 のあちゃんとリオが、顔を赤くして俺を見ながらオナニーしている。リオはピンクローターを振動させながら激しくスカートの中で手を上下させている。のあちゃんも、スカートを脱がずに下着をずらしただけの状態で振動付きのディルドを使って腰を振っていた。一度気付くと、二人の自慰の音がやたらと耳に入る。二人の吐息とわずかな喘ぎ声が、俺のものと混ざって部屋の空気を余計に甘くしていく。
「ふた、りとも、あっ、みないでぇ」
 二人が俺を見て、エッチなこと考えてるんだ。違う、二人も。俺以外の人、みんな、俺のこと……!
「イけ! 鼻血垂らしながら、ザーメンまみれになってイけ!」
「んぁ、ッあ、やら、あ゛ッ、~~~~ッ!」
 金本の言葉責めを聞いていた女子は、ほとんど同時に果てていた。俺も、更に大きな波に合わせてまき散らす。
「っ――!」
「くっ……!」
 上と下とで、濁流に飲み込まれる。どっちも熱くて多くて、白濁が溢れていく。飲み込みきれなかったものが首や尻に垂れて、全身に浴びていくような感覚に目眩がした。
「おい、お前ら」
 金本は抜かないまま再び動き出した。俺にはお構いなしに女子達にも声をかける。
「混ざる?」
「ンァ!」
 ばちゅ、と粘り気のある音をわざと立てられる。俺はただ、押されたら鳴くおもちゃみたいにただ喘ぐだけになっていた。何回も快感のてっぺんを超えて、何回もしつこく嬲られて、目の前のことが処理できなくなっていく。
「私も、ちー食べたいな。エッチな子だね、ほんと」
「ちーぃ♡ もっと可愛くなっちゃお」
 リオとのあちゃんの目が、やたらと光っている。手には大人の玩具や、チョーカーみたいなものが握られている。
「ッ、みんあ、やらっあ、なんぇ、……!」
 玩具の振動音が耳に響く。みーくんので指で押された感覚を思い出して、内股が震えた。
「ちーが好きなこと、してあげるね♡」
 全員が俺に群がっていく景色を見てから、記憶と意識がぐちゃぐちゃになった。
 俺はただ、みんなに食われている感覚を追いかけて、喉を枯らしていった。