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 特待生として男子校に通ってます。同級生二人と肉体関係を持っています。元々、この二人からはいじめを受けていました。
 こんな風に言えば、インターネットだとアホみたいに面白がられるんだろう。でも、そうはしない。母ちゃんに明るい話を送る。今日食ったものを送る。スマホの正しい使い方って一体なんでしょうか。不特定多数と連絡をとらないこと? ネット上で怪しい人とコンタクトを取らないこと? 今までスマホをそういう使い方をしたことはないけど、俺はそういうことをしています。俺の生活は爛れている方だと思います。
 特待生って、優等生のことを指すんじゃないんですか。模範生と同等なものじゃないんですか。
 聞き覚えのない社会と世間の声が頭の中で溢れかえっている。
 被食者としてアレコレされるのが堪らないんです。そうやって求められて、生きてるって実感できるんです。それってそんなにおかしいことですか。群がられるのって夢じゃないですか。愛されてるって感じられませんか。人気者って感じがしませんか。それって、そんなに、おかしいんですか。
 世間の声は消えていって、俺の声で開き直った声がする。俺の被食願望の根底はやはり、単なる自己承認欲求なのではないか。だから、とんでもなく下らなくて、浅くて、「愛し愛される彼女ができたら満足するんじゃないんですか」と言われたら否定できない。困窮してなければ、きっと転校している。新しい生活をスタートできるなら実行している。今の人間関係をリセットできたら一番楽だろう。

 ことはどんどん複雑になっていった。
 リオは金本に気がある。のあちゃんは宇深が好きそう。だけど男子どもは、全然相手にしない。あいつら二人とも、普通に女の子が好きなはずなのに。のあちゃんもリオも可愛い部類に入るくらい整っていて、姿に手間暇もかけて綺麗にしている。どうして俺ばかりに集まるのか、意味がわからない。
 女子組は文句を俺に言ってきても不思議じゃないのに。のあちゃんは何故か、俺を姫扱いする。リオはそれに便乗して、面白がっている。最近じゃ俺を着せ替え人形にする遊びが、二人の間で流行っている。パステルカラーのセーラー半ズボンを着せられて、リボンまみれにされたこともあった。写真を撮ってプライベートアカウントにあげて……その格好でそのまま、セックスに持ち込まれる。食って食われて、というようなことをリオは言うけど。単に俺を通して金本や宇深を見ているのでは、と思ってしまう。彼女たちが、俺とあいつらで態度が違うのは見てのとおりだ。俺相手に目を輝かせ、男らしい枠で視線を注がれたことは無い。自分よりも弱い何かだと思っている。
『オレはさぁ、お前の写真で個展開くのが夢だから。トモダチとして協力してくれよな』
 玩具(トモダチ)の間違いだろ。脳味噌の遠くで、俺が囁いている。
 金本はどうやら血が見たいらしい。ボクシング界隈を追放されたって言っていたのは、相手が血まみれになっても止めなかったとか、そういう事をしたんじゃないか。俺が鼻血を出して、咳き込んだりすると異様に興奮するのは見ていて分かった。
 宇深は……。行為の中で出来る限り、俺にも得があるようにしてくれているけれど、かなりディープな趣味なんだと思う。涙、涎、鼻水、血、精液、……。セックスしている間が効率よく分泌されるから、身体を重ねているのか、俺自体を食うということに価値があると思っているのかは分からない。

 結局こうして、旧校舎裏まできて蟻に餌やりしている瞬間が一番の時間になっている。考え事にはうってつけの場所なのだ。親指の角ばったところを人差し指で強めにひっかくと、やや固めだったものの、以前剥がした時と同じ形に裂けていく。皮膚の癖がついているらしく、だいたい同じところからめくれるのが面白い。摩擦と摩耗の音が、真夏の太陽の下で奏でられている。誰もそれを聞くことはないが、固くなった皮膚を剥がすとき、爪の方が負けることもある。ぼろぼろな爪に硬さや尖りはなく、千切れたように不揃いで、紙同然に薄い。これを剥がしたらきっとひどく血が出るんだろう。毟ったら、リヒトは悦ぶだろうし、みーくんはしゃぶりつくだろう。でも今はいない。地面に垂らして、乳白色の蜘蛛に飲ませていた日を思い出していた。
 きっと、金本からしてみれば面白くないのだ。せっかく、暴力に打ちのめされて弱った俺が見られたというのに、めそついたところを宇深が持っていってしまうのだから。
「ああ、そうか、つまりは」
 簡単に言えば、玩具(トモダチ)取り合いをし始めたのだ。
 愛されても、いじめられても、玩具(トモダチ)になるのは何でなんだ。金本や宇深に抱かれている時には、自分は食われている側だと思うのに。リオやのあちゃんを抱いている時でも食われていると感じるのは、何でなんだ。性別の問題じゃない。環境の問題じゃない。シチュエーションとして必ずそうなるのだとしたら、俺の性格や性質の問題だ。
 俺自身に何か、問題があるのではないか。劣等感を滲ませて、いじめに耐えて素知らぬふりをして、学校以外での人間関係でまともぶって、親孝行していそうな素振りして、同世代と比べて将来考えているみたいな振りして……。その実、楽な方に流れて、自滅的に日々を乗り越えてるだけなのでは?
 何かが辛いはずで、それでも被食願望は消えなくて、女子二人に挟まれて今日したいプレイを柔らかく問い詰められることを望んでいるのでは。リヒトに血まみれにされて、みーくんに慰められるように食ってもらうことを、常に期待しているのでは。クラスメイトの宇深と、ゲームの話やファッションの話をして楽しい日々を送りたいと思うように。バイト先の次のシフトや部活の予定などの、少し未来の話をして、次の約束を作りたいと願うように。日常の一つとして、緩やかに腐るように……。
「どうしよう」
 俺の独り言が漂ってセミの声にかき消されていった。
 状況として変わったことと、俺が今までにない可能性に気付いたということもある。金本と宇深の仲が悪くなったことだ。もしかしたら元から大して仲良くないかもしれない。俺はずっと、宇深が金本を連れてきたのだと思っていた。いや、事実、金本が《部活に入っていない柿谷の友人》というポジションで入ってきたのは間違いない。それ自体、宇深は否定していないけど肯定もしていない。……金本に見つからなければ俺はいじめられることもなかった。
「どうしよう……」
 自分では分かっている。自分にとって、あのコミュニティは……もはや自身を語れる場所ではないのだと。全員に食われた感覚だけではなく、一番の恐怖を感じていた対象だった金本を一瞬でも食えた気がしているのがいけない。病み付きになる優位性と劣位性……、心が接着剤で固定されたかのごとく関心がへばり付いている。
 食われたいと思っていたのは、性的にじゃない。肉として、食糧として食われていることを望んで居たはずだ。元々望んでいた状況とは、かけ離れている。どうして、気持ちいいことをしたら自分は許されているだとか、価値があるだとか思えてしまうのだろう。
 セックスは肌の上での出来事だと言う愛好家が居たのを思い出した。夏休みに入ってすぐ、寮のパソコンでインターネット上を彷徨った時の、あのブログ……。セックスは、埋め込まれて流し込まれるから内臓を感じやすい行為なわけで……。つまり、直接的に食って取り入れる事には及ばないはずなのに。

 ……俺がお望み通り、食材のように扱われたとして、たった一食で何ができるのだろう。

 この疑念が頭から消えない。誰かの一食になれたとして、一瞬で終わるじゃないか。
 バイト先で十分にその様子を見ている。おかみさんや旦那さんが丹念に用意した食事を、新聞やスマホを片手に流し込むおっさんが、その一食のなかの食材に真剣に向き合っているなんて思えない。だらだらとファストフードを食べる学生も、道ばたでお菓子を食い散らかすクソガキも、コンビニ飯で「また同じもの買ったや」とぼやく俺だって。
 食材の目線で考えたら同じなんてこと、絶対にないんだ。その肉、その玉子、その葉脈、全部が全部、唯一で一意のものだというのに。
「どうしよう」
 食われたいのに、食われたくない。そんな風に食われても嬉しくない。でも食べてほしい。強烈に。心も身体も掻き毟るような焦燥と共に湧き上がる、被食願望。
 不安の代わりに皮膚片を撒き散らす。全部拾い上げてくれるとわかっている。指先から血が出ようと、ひどく痛もうと、風が吹くだけで指先の感覚が膨れ上がろうとも、一晩でほとんどふさがってしまうのだ。

 俺は、どう食べられたいんだっけ。遠くを見つめた先、首から下げたカメラのシャッターを切る。

 ◆ ◆ ◆

 カメラを持ち出して、校舎の中を撮影して回る。一人で撮って歩くのは、そういえば初めてかもしれない。割りと枚数が溜まってきたので、部室にあるパソコンでデジタル処理をすると決めた。色調整の基本が載った本を、最近買っておいたのだ。バイト代で潤ったので、自分にも何かを買おうと思いつくまでは良かったが、何を買うかで悩みまくった。ずっと使うものが良いと考えて、カメラの本を選んだ。本があるとは言え、ほとんど独学になる。でも、苦じゃなかった。自分が切り取ってきた景色が、実際見ていたよりも鮮やかになることとか、自分が感じていたように変化させられることだとか、都度感動できたからだ。
 失敗例と成功例が載っている本なので、自分の写真の変化を見比べながら進めていく方法を取っている。我ながら上達が早いのでは? と自画自賛したくなる気持ちが湧いて、なんて健康的なんだろうと思った。こうやって作業に没頭できていれば、……あるいは自分のするべきことに集中できていれば、不安に駆られることなんて無いんだ。無闇に爪をかじることも、皮を毟ることもしなくていい。一人でいることがあまりにも辛くて、隙間風が吹いているような心地がしていたけれど、本当に好きなことをしたい時は、結局一人になるのだ。集中するということ自体、自分だけが居れば良いのだから、他人なんていらないのでは……?
 そこまで考えたけれど、写真を見てもらうには他人が必要になってしまう。いくら自分の記録として残すと言い張ったとしても、こうして調整している時点で、記録として全く正確ではないと分かってしまった。だが、それでもいいか、と思えてきた。記録されて、誰かに伝えようとした時点で他人への意識があることなんて、……探究に自分と他人を持ち出してきても何も面白くならないから、自分さえも忘れようと思った。

 最終下校のチャイムが鳴るまで、時間がスキップされてしまった。慌てて校門から出て、守衛さんに挨拶して帰る。何回も行われたうちの《今日のミッション》で、訝しげな目で見られてしまった人だけれど、多分向こうは覚えていない。普通に、にこやかに「はい気をつけて」と言われただけだった。
 ……自分と他人って区別だけじゃなく、自分のことも少しは忘れてもいいんじゃないか。ここ数ヶ月の記憶を飛ばしてしまっても許されるんじゃないか。いじめられたことも。玩具にされていることも。特待生とはいい難い行いも。今だけ……。部活とバイトに熱心な生徒ということだけ切り出せれば、全然普通なんじゃないか。まだ、踏み外しているようなことは何もしていないはずなんだ。
 自分の何かに言い聞かせて、自分じゃない誰かに言い訳をして、帰路を急ぐ。
 今日はもうどこにも出かけたくない。コンビニで、夕飯の他に夜食としてカップ麺を買って帰ろう。ジャンクフードをおやつっぽく食べられるくらいの金もある。ラーメンチェーン店でチャーシュートッピングは躊躇うけど、ホットスナックならプラスする余裕はある。ほら、普通だ。金のない学生らしい感覚だ。
 
 ――そう都合よく、考えるのは許されないみたいだ。
 
 宿泊棟に戻ると、宇深から食事に誘われた。予定が合えば大体一緒に食べていたのだが、今日は奇妙だった。机の上には、食パンの六枚切りの他にジャムとバターが並べてあった。夕飯にしてはあまりに適当すぎるように見えた。
「これに出して」
 差し出されたのは透明な空瓶だった。何を、と尋ねるまでもなく一瞬で理解してしまった。
「な、なん……!」
「飯にするから」
 俺が動揺するのを見越してか、食い気味に返答してきた。瓶を半ば押し付けるように俺の手に納めると、食パンの封を開けてバターを載せていく。その食パンを、部屋に備え付けられている小さなトースターへ入れていく。金網の横幅きっちり、二枚横に並べた。カリカリとダイヤルを回して機械が独特の音を立て始める。
「早く」
 食われたいのは、間違いない。だからこういうのは願ってもない提案なのだ。
 俺が願っていること。本当に? 帰り道で忘れてもいいんじゃないかと脳内を過ったはずだ。今要求されていることは、本当に自分が欲していることなのか……?
 難しいことを考える余裕がない。とにかく、済まさないと終わらないから、と自分の中で言い訳をする。瓶を持って背を向けようとしたが、そのまま宇深の方を見ているように命令された。
「……ッ、ふっ、ん……」
 耐えきれない声が、歯を食いしばった隙間から漏れていく。瓶の底に俺の塊を擦り付ける。冷たいガラスの感触を感じながら、細かに動かしていく。根本や竿の部分にも触れて、徐々に固さが出てきた。恥ずかしいはずなのに、鈴口からの露で瓶底が滑って気持ちいい。宇深に見られていると思うと、息がどんどん荒くなってしまう。
「ちぃ」
 また、あの甘い呼び方。声の方を向くと、上を向かされて深く口付けられた。口の中に広がる唾液を舐め取っていくような仕方だった。
 甲高いベルの音が鳴る。トースターが仕事を終えたんだ。焼けたパンとバターの香りが鼻をくすぐる。宇深が食べていたのかわからないけれど、ほのかにフルーティーな香りが合わさった。
「ん、ぁ……!」
 俺も調理されているようなものだ。きっとこれは下ごしらえなんだ。舌の上や上顎を撫でられて、知らず知らずのうち、瓶底にこすりつける手が早くなっていった。
 瓶の中に放っていく一瞬、目の奥が眩く光って瞼を開けていられなくなる。
「ンッ――!」
 短い時間で長い距離を走り抜けたように、息が上がっていた。宇深は挿し込んでいた舌をゆるゆると動かし、最後にぢゅっと音を立ててから離れた。料理の仕上げみたいで、背中が震える。
「これで、いいのかよ」
 宇深の顔が見られない。新鮮で採れたてのとろっとしたミルクです、なんて言えるほどふざけられないし、……味に自信なんてあるわけがない。恥ずかしさと不安でぶっきらぼうに瓶を突き返した。
「ん」
 宇深はそんな俺の態度なんて気に留めていないようだった。小さじにすくった精液を、トーストの上におとしてジャムと一緒に塗り込んでいく。鮮やかな色のいちごジャム。安っぽくない、ちょっとオーガニックな雰囲気で高そうな商品だ。品のいい瓶の横に俺が出した白ジャムを並べている。容量は全然ないけど、貴重な食材として同列に扱ってもらっている感じがする。
 宇深の大きな口が、トーストの半分くらいを齧って……見せつけるように咀嚼した。
「……ッ、!」
 今までの、性欲が前に立つ行為でとは全く違う。純粋に《食う》と言うことにフォーカスされている……。美味そうに目を細め、口の周りについた食べカスを舌先で器用に舐め取り、食べている途中で白ジャムを足す。待ちきれないような表情は、無邪気に美味しいものを楽しむ子供みたいだ。大好物がすぐに無くならないよう、量に気をつけながら、でも味をしっかり感じられる量を見極めて……。
 トーストを全て食べ切るころには、白ジャムはすっかり無くなっていた。瓶の中に残っていたわずかな雫も指で掬って舐める。宇深うっとりとした目つきで俺を眺め、耳元で囁いた。
「ごちそうさま。美味しかったよ、ちー」
 俺は『たった一食』の破壊力を知る。じたばたと肋骨の中で心臓が跳ね回った。全てを投げ出しても良くなるくらい、甘美な出来事で、今までの人生はこのためにあったと思えるくらいの衝撃だ。目眩に似た恍惚は景色を歪めていき、立っていられなくなりそうになる。顔が熱くなっているのを感じながら、浅く息を吐く。
「宇深は何で……、……こういうのが好きなの」
 何で、俺を食うの。そのまま言葉にできたら良かったけれど、ものすごく慎重に言葉を選んだ。俺は、虫に食われるのが好きだって話してないけれど、食われる側として聞いても良いと思った。権利があるかどうかは知らないけど、少しくらいは……と期待する。
「お前だけ」
 そう言って、俺に触れるだけのキスをした。いちごジャムの微かな香りと、宇深本人の匂いが混ざって、……無性に飛び込みたくなる。宇深はそのまま、俺をそっとベッドへと押し倒した。自然な流れに思えて、身を任せてしまう。
「体液は、……発露だと思ってる」
「はつろ?」
 何となく、取り繕いづらいものだという風に受け取った。
 そういえば。宇深が血を舐めるのは、金本のせいで出血したときだけだ。宇深に殴られたりして血を啜られたりはしていない。
「言葉や態度なんかより、よっぽど信じられる」
 感情が高ぶれば涙が出る。暑ければ汗が出る。乱れれば涎や精液が出る。……多分、言いたいのはそういうことなのかも、と納得する。家族でさえ「何を考えているのかよく分からない」と言われていたということは、宇深なりの気持ちや思いを理解されてこなかった過去があるのかもしれない。
「お前の、もっと奥も」
 ぐっと下腹を押される。ぎらりと光る目が、何か企みを持つように見えた。俺と見つめ合っているようで、俺ではないもっと奥にあるものを見ているような気がしてくる。
 俺が被食願望の自覚を持つ前に、俺を食べて。居場所を探していた俺を見抜いて、コミュニティに連れてきて。俺はみんなから食われるようになってた。金本から余計に痛めつけられて、べそをかく俺には優しくする。だから俺は……、結構、宇深のことを信じてしまっている。

 こいつが一番、美味しいとこ取りをしている……。
 全部、宇深の手のひらの上だとしたら? 積極的に動き回る事なく、所々のポイントだけで行動して……。転がり落ちる結果が、宇深の望むとおりになっているのだとしたら?
「宇深、ごめん」
 きっと、さっきの言葉に嘘なんて塵ほども無いんだろう。宇深にしか分からない悩みがあって、誰かと共感できる苦しみが合って、俺と分かち合える楽しみがあったとしても。……多分、真意は一生分からない。
「俺も腹減っちゃった」
 俺が苦笑いすると同時に、俺の腹が鳴った。宇深は眉を下げて笑う。目の前で気が抜けた表情になっていったのを見届けたからか、無意識に隠していた緊張が静かに消えていった。
「またカップ麺?」
「カップ麺は今日の夜食!」
 俺の言葉も、嘘じゃない。腹が減ったのは事実だ。俺と宇深のもっと奥にあるものを、今は見たくなくて逃げ出しただけだったとしても。胸が高鳴るのを抑えられなくて、怖くなってしまったのだとしても!
 
 どうしよう。
 宇深に食われるのが、癖になっちゃう。押された腹が熱い。これ以上、踏み込んでしまったら戻れなくなる気がする。

 今この瞬間、青春じみたシーンを生きているのに。卵の殻より薄いところを歩いているのなら、一体いつまで普通ぶっていられるのだろう。