2 被食讃歌

16

 宿泊棟から寮に戻れる日が近づいてきた。今日はバーには行かず、バイト後は宿泊棟に戻っていた。長いようで短い期間の、宿泊施設生活が終わる。母ちゃんに、宿泊棟からの景色と部屋の写真を送った。もうすぐこの部屋から出て、寮に戻るので、朝と夜のご飯も心配なくなるよ。そうメッセージを添えると、母ちゃんから笑顔のスタンプが帰ってきた。それなりに使いこなしているようで、母ちゃんからも時々メッセージが届くようになった。
 広々とした浴場とお別れになるのは寂しかった。荷物をまとめて、いつでも出られるように準備だけしておく。あと一週間あるものの、バイトに行って出かけてすぐに寝ている生活だとあっという間に過ぎてしまうものだ。宇深からもらった服も増えて、元々持っていた古いTシャツは家着に回そうと決める。課題は早い段階で終わらせていたものの、全く勉強していない期間があったので復習がてら見直す。それに、自由課題の存在を忘れていたので、適当にテーマを付けて写真とレポートを作成しようかと考えることにした。
 しばらく集中して一段落付いたタイミングで、扉がノックされる。チャイムがついていないので直接扉を開けるしかないのだが、そもそも俺のところを訪ねてくる人は一人しか居ない。
「宇深? ちょっと待って」
 オートロック担っている扉を開けると、宇深が立っていた。コミュニティへ行かずに帰ることを伝えていたので、立ち寄ってくれたのかなと思う。右手に持ったコンビニのビニール袋を掲げた。
「今、ちょっとだけ課題の見直ししていてさ。自由課題、夏休み中に撮った写真を出そうと思って整理もしてたんだよね」
 宇深が無口なせいで、大体俺ばっかりが喋っているがそれも慣れてきた。部屋に入ると、勝手知ったる風に――というか、宇深と俺の部屋の構造は同じなのだ。しかもこの部屋には椅子が一脚しか無い――カバンを適当な場所におろして、ベッドへと腰掛ける。
「ん」
「あ、飲み物? ありがと」
 蜂蜜レモンと、好物のライチソーダが入っていた。安くて、炭酸が強くて、ちょっと甘いのでしょっちゅう買っている。宇深もそれを覚えてくれて、買ってきたのだろう。
「こっち、もらっていい?」
 選んだのは当然、ライチソーダだった。宇深は静かに頷いて、フ、と力が抜けた笑みを浮かべる。
 早速頂きつつ、宇深も課題を持ってきたらしく答え合わせをしながら時間を過ごした。学生らしい、夏休み……。と勝手に一人で感動していると、また宇深に妙な目で見られたがもう気にしない。
 答え合わせをした後は、何となくそれぞれの時間を過ごしていた。宇深はベッドに寝転んで、本を呼んでいるみたいだった。静かな時間が流れて、これもまた青春……みたいに感じて居心地がいい。こういう時間を過ごすのは久しぶりな気がする。
 そもそも、深としばらく会っていなかったような気がするのは、多分タケチカさんの食事会を挟んでいるからだ。あの体験は、俺の人生を変えたと言っても過言ではない。アレは、美味しかったとかそういう簡単な言葉で言い表せない出来事だった。
「宇深?」
 穴が空くほど見つめる視線を浴びていると気付いて、呼びかける。宇深の表情が読めない……のはいつものことではあるけれど、大分慣れてきたから機微の良し悪しくらいは感じ取れるつもりになっていた。今、それが何も分からない。
「食べたの」
「何を? 今日の飯?」
「タケチカさん」
 喉元に鋭い刃物を突き立てるような聞き方だった。怒っている……だけではなさそうだ。咎めるような声音で、蔑むような瞳だった。宇深の手には、食事会で提出した同意書の控えが握られていた。ベッドのそばの引き出しに入れていたのを、片付け忘れていたのだ。
「た、べたよ。招待、されたから」
 躊躇いながらも、そう答える。だって、あの体験は本当に特別だったんだ。それを笑ってごまかしたり、嘘を付いて取り繕ったりはしたくない。
「そう」
 石の表面を押し付けるような、冷たい一言だった。全身にぞわりと鳥肌が立ち、身体が意識せずとも小さく震えはじめる。乱雑に腕を掴まれたかと思うと、ベッドへ物みたいに投げられた。抵抗する暇もないくらい、無理矢理に押さえつけられて、うつ伏せにされた。
「ヒッ……!」
 べろり、と首筋を舐めあげられ悲鳴を漏らす。
 耳元で、「ちぃ」と……妙に優しさをもたせた言い方で、零す。その声は笑みを含んでいたのに、恐ろしさが際立つ。まるでお仕置きする前に、わざと猫撫で声を出しているみたいだ。これから起きる恐ろしさを植え付けようとしている。

 なんだ、誰だ、この男は。これは本当に、自分の知っている柿谷宇深なのか。

「うぁっ……!」
 首筋に歯を立てられ、俺は目を見開いて身体をばたつかせる。ガリッと強く噛む音を何度もさせながら、容赦なく食いついてくる。有無を言わさぬ振る舞いに、全身の震えが止まらない。
「やめ、っ痛い! やめろ!」
 痛みを逃がそうと声を上げた。とにかくこの状況を脱せねばと、足をめちゃくちゃに振り上げて逃げようと試みたが、軽くいなすように足を掴まれる。甘く、蕩けるような息を吹きかけられた。それとは真逆な仕草で、掴んだ足を乱雑に引っ張って、身体を引き寄せてくる。
「逃げるな」
 密着した状態で、とうとう怒気を帯びた声で俺に殺意を向ける。どうしてここまで怒っているのかが分からない。人を食べたから? 人倫にもとる行為だって言いたいのか?
「やめろ……やめて! 離せってば!」
「食ってやる」
 その一言がとんでもない迫力を持っていて、自分よりも強いものに対する本能的な恐怖として身体を貫いた。頭の中で金属の板を叩きまくるような警鐘が鳴り始めた。
 力づくで仰向けにさせられる。普段は無気力に緩んでいる目がつり上がってぎらぎらと光っていた。
「お前を、食ってやる」
 繰り返される言葉に、恐ろしくて寒くなる。全身が震えて歯がガチガチ噛み合った。今のこいつに言葉は絶対通じない!
 叫びをあげようとした口を、宇深の唇で強引に塞がれた。絶叫するために吸った息は吐かれることなく、無理矢理舌がねじ込まれる。舌を引き出すような動きで、強く吸われた。ぬるりとした感触は、今までだったら嫌悪無く受け入れていたのに、恐怖で心臓が縮みあがっているせいか、吐き気がせり上がってきた。
 これから行われる行為への拒絶したい気持ちはあるのに、上あごを舐められた瞬間に体がぞくんと震えた。身体だけは、刺激に対する反応を簡単に返していく。
「ん、ンぅっ! ふ、ぁ……っ!」
 いつもより、くちゅくちゅと大きめの水音を立てられる。口内を宇深の舌に蹂躙されて息もまともにできない。きつく目を閉じてしまったせいで耳が冴え、頭の中に直接響くように聞こえてくる。粘着質な音は呼吸ごとの息を追いかけ、悍ましい感覚をベッタリと貼り付けて襲いかかってくる。首を振って逃げようとするも、頭を掴まれ、逃げることを許されない状態にさせられた。
 息苦しさと妙な感覚に身体の硬直が徐々に溶けていくのを感じ、どこか甘い吐息を零してしまう。宇深が口の端だけで笑うのが見えた。
「口輪筋」
 耳慣れない言葉が聞こえる。口周りを軽く食むようにして、音を立てて唇にキスを落としてから、その唇を下へ、下へと下げていく。
「口角下制筋」
 俺の唇のすぐ下あたりに、またキスを落とす。
「胸鎖乳突筋」
 鎖骨の上辺りを強く吸われる。刺すような痛みがして、こらえきれずに声を上げた。
「僧帽筋」
 首と肩の境目辺りに、ゆるく噛みつかれる。段々と宇深がやっていることが分かってくる。部位ごとの肉や筋で、擬似的に解体しているんだ。
「どうやって食われたい? 一本ずつ、筋肉をバラす? それとも、煮込みにする?」
 宇深にしては饒舌だった。徐々に壊れていくような笑みが怖くて、俺は左右に首を振る。
 そのまま舌は更に下っていった。鎖骨の上みたいな皮膚が薄くなっている所を狙って、痕をつけていっていた。
「肌、甘い……」
「やめろって……! そんなはず、ないだろ!」
「甘いよ」
 そう言いながら、俺の胸元に吸い付く。胸の粒へと舌が這っていき、俺は犬が打たれたみたいな声をあげた。
「グミみたい」
 そう言って、前歯と舌先で転がし出す。前にもこうして舐られたことがあった。その時と同じく、ピリピリと電気が走るような刺激がして手足までむずむずして……。宇深に押さえつけられてるせいで、身体だけが跳ねる。
「う、ぁ……何、……!」
 睨みつけようと宇深を見れば、べろりと舌を出して俺の胸を舐めあげていた。自分を見つめる宇深の鋭い瞳と視線がかち合う。
 リストバンドをくれた時は、甘く見つめていた優しい瞳だったのに。今は獰猛な獣のように怪しく光っているのを目の当たりにする。びりりと体中に走った恐怖のような悪寒に喉の奥で悲鳴が上がる。
「あ、あ、やあっ……!」
 捕食。蜘蛛が素早く虫を捕獲する時と同じ……。目の前の男は友人でもなく、気安く呼び合うクラスメイトでもなく、捕食に目覚めた男なんだ。じっくりと視線が交差し、突きつけられた事実によって炙られた羞恥や混乱があふれだす。涙を滲ませた俺を見て、うっとりと目を細めた。そのまま胸を舐めあげながら反対の胸をぐりぐりと指で押しつぶした。
「……やらしい」
「嫌だ、ひっ、やめ、っ……!」
 舌で転がし、時折かりかりと指で乳首を引っ掻いていく。これはグミだと言いながら舐られていると、宇深の唾液を吸ってどろどろに溶けてしまうのではないかという錯覚に襲われる。
 宇深の右手が俺の服の中に侵入してきて、太腿を撫でた。単に触るのではなく、薄皮一枚だけを撫でていきながら、筋肉の隙間を確かめているようだった。解体、まだしているんだ。そう思うと途端に怖くなる。
「ひっ! ……宇深!」
「今まで、ずっと考えてた。俺に人体を食う趣味は、本当はないから」
「……あっ!?」
 俺の足を膝で抑え込んで、易々とイージーパンツと下着を一気に引きずり下ろす。露わになった下半身に、宇深は熱い吐息を零しながら俺の性器に顔を寄せた。じっくりと俺の半勃ちになったものを眺めている。
「そんな、無言で見るなよ……!」
 ただ見られているだけというのは今までに無くて、腹の奥を鈍くひっかくようなもどかしさがあった。
「ひゃ、……!」
 そっと宇深の指で裏筋を撫でられ、俺は反射で身体を揺らす。逃げようと腰を上げが、そのせいで宇深に性器を捧げることになった。生唾を飲み込む音がしたかと思うと、目の前にある俺の性器にキスをした。
「ちーの、舐めたい……俺の口でお前をぐちゃぐちゃにして、舌でグリグリ弄って、お前の全部を飲み干したい……」
 熱に浮かされたような声で、信じられないセリフを吐かれた。普段無口な宇深だから余計に卑猥に聞こえてしまい、下腹がきゅっと縮む。
「もぉ、やだ……!」
「ッ勝手に溢れてさせて……。想像したんでしょ。我慢とか、もうしないから」
 獰猛な獣が餌に食らいつく。宇深は俺の足を無理矢理に両手で開かせたまま、無防備なそこへむしゃぶりついた。ジュルジュルといやらしい音を立てて蹂躙される自分の姿を見たくなくて、硬く目を閉じる。
「あアァっ、ヒッ! も、や、やだ、ぁぁあっ……!」
 腰に腕を回されていて、身体をよじっても全く逃げられなかった。その間にも、音と熱が、俺の身体を蝕んでいく。諦めずに逃げようと足をばたつかせても、俺よりも力が強い宇深には買わなかった。宇深は暴れる脚を抱え込むように持ち直してより大きく開脚させ、再び芯へと食らいついた。
「こんなにビクビクさせて、……」
「んぁ、あ、……っ! やだ、や、吸わな、でぇ!」
 今までにない快楽だった。柔らかい宇深の舌が俺のを全部包み込んで、腹の奥の、更に奥で火が付く。内側からむくれ上がる感覚にたまらず声を上げた。
「ああぁ、ッ! いぁ、ッ……!」
「本当にここ、齧り取ってやろうか」
「やら、無理、無理だからぁ! 口、はなせぇっ……!」
「イって。早く」
 恐ろしいことを言われているのに。怖いほどの快楽に沈められているのに。このままイッたら、どこまでも引きずり込まれて、とうとう食われても可笑しくないのに!
「や、あああぁ! あ、あぁっ! だ、めぇ、だめっ、やめて、あ、うみ、うみ……!」
 俺の鈴口を舌先でくすぐられ、出っ張ったところを引っかけられながら強く吸われて、呆気なく熱を放つ。宇深は当然のようにそれを口で受け止め、音を立てて飲み込んでいった。
「やめてじゃなくて、もっと、でしょ」
 イッたばかりで過敏になった芯を、ぐちゅりと嬲る。先を咥えられた状態で耳を塞いでしまいたくなる音を立てられ、思わず目を見開いた。
「あっ、ああぁッ! また、イッちゃう! やめ、やめてぇッ! ああぁ――ッ」
 宇深を見れば、頬を紅潮させ恍惚とした笑みを浮かべていた。あまりに強い刺激であるせいで、快感はなく苦痛を感じる。宇深は口を、かり首に引っかけながら滑らせて、手で更に追い立ててくる。
「はっ、はぁっ、やめてっ、やだぁ……! しんじゃううぅ!」
 漏れそうな感覚に襲われて身体が強張る。視線がかち合い、ぞくりと背筋が震えた。「あ」と漏れた声を皮切りに、勢いよく何かが噴き出した。漏らしちゃったかも、と血の気が引くような思いがした。
 宇深は噴き出したものも飲んだみたいだった。ようやく口を離した時には、鼓動に合わせて壊れた蛇口みたく液体が流れ出ている。精液でも尿でもない、透明な液体だった。これまでにない感覚に全身が震え、羞恥心も一緒に解き放ってしまったようだった。
「あ、あぁぁ……」
「可愛いね、ちー」
 宇深の機嫌がやたらとよくなっていて、怖くなる。まだ何かされる。身体はその事を知っているみたいに、強い放心状態にも関わらず、早鐘を打ち続ける。ほとんど力が入らないが、身体はまだ逃げようともがく。
「逃げるなって、言ってるのに」
 再び俺の身体を押さえつけ、俺の芯を舌で突いた。声にならない悲鳴が上がる。自分の身体じゃないみたいに神経がむき出しになっているし、声も勝手に溢れ出ていく。腰が痙攣していて、このまま酷いことをされ続けるんだ。
 諦めそうになる意識を覚醒させたのは、まだ固い蕾に舌を押し入れられた感覚だった。瞬間、身体が竦んで、宇深の舌を締め上げるみたいに中が蠢いた。
「ひっ、くっ……ぅ、やらぁ」
 俺はいよいよみっともなく泣き出した。脱力した両足を大きく開いたまま、声を押し殺す。俺の姿を見た宇深は薄暗く笑って、自分のジーンズのジッパーをゆっくりと下ろした。ずっと中に押し込められていた宇深の象徴が、勢いよく飛び出してくる。俺が喉を恐怖で震わせる様子に興奮したのか、息をゆっくりと漏らした。
「こっち見て、ほら」
 体格に見合うサイズのものを、腕で顔を覆う俺の真横に添え、自分の手でゆっくりと扱きはじめる。
「ひっ、く、や、もう、やだ……っ」
「いつも、こんな風になってたの、知ってた?」
 俺顔の横で性器を扱く音がして、段々と水音が激しくなる。短い息が更に早くなって、顔を覆っていた腕に生暖かいものがかかった。
「……ッ、え?」
 宇深のものがぶっかけられていた。「食べるならソースが必要だし」とか言う。宇深が一体、何を言っているのかが理解できなかった。宇深のものは勢いや硬度を失うこと無く、次に備えて屹立したままになっていた。
「粘膜って色々吸収するから、座薬って効果があるわけなんだけど」
 目の前の宇深の楔を驚異に感じて、喉の奥でひきつった悲鳴を上げた。首を振って再び固く瞳を閉じてしまう。宇深は俺に「かわいい」と笑うと、宇深の唾液で濡れた俺の蕾に性器を押し当てた。
「直腸から吸収されたら、静脈血流の中に入って、心臓を経由して……。それで全身に循環するんだって」
 ぞっとする程に低い声でそう囁かれる。呼吸が出来ない恐怖と宇深の威圧感にと震えながら、俺は芋虫みたいにもぞもぞと身動ぎした。
「タケチカさんの栄養が全身の細胞へ行き渡る前に、全部飲ませてから、食ってやる」
「ふ、ぁっ……ああっ! やあ、やだぁ!」
 身体が痙攣する。必死に逃れようとする俺の腰を抱き寄せて、宇深の昂ぶったものが、酷く生々しい音を立てて一息に突き入れられる。
「ん、ァ、ぃやぁぁあっ!」
「ああ……熱い……!」
 宇深の感嘆が俺の耳に届く。宇深は身体を揺すりながら、もはや意味をなさない喘ぎ声を上げるだけ俺を、まるで大切にしている美しい蝶を眺めるみたいに目を細めた。
「ちぃ、いい子だね」
 普段とあまり変わりない優しい声と共に頭を撫でられ、俺の中で恐怖と妙な安心感が混ざり合う。どうして、宇深は怒っているのだろう。腕に掛けられた宇深の精液が自分の顔や身体に付いて、宇深の匂いだらけになっていく。むあっと立ち上る男の臭いにまみれて、頭がぼうっとしてしまう。
「あ、アアぁっ……!」
 俺の臀部に宇深の睾丸がぶつかって、おかしな音が響く。それほど俺と宇深は密着していた。宇深は俺を強く抱きながら、俺の片足を担ぎ直し、もう片方の足を跨ぐような体勢になる。快感から逃げようと足を閉じるようもがく俺を抑え込んだ。
「あぐっ、んあぁ、あヒッ! や、あぁぁ!」
 喘ぎの中にひきつった悲鳴を上げる。自分を支配すべき存在として組み敷いて、宇深はがむしゃらに腰を動かす。頬を赤らめ、恋を知ったばかりの子供みたいに潤んだ瞳を細める。
「やら、や、あああっ! 俺、だめ、イッて、るぅ!」
 横向きに近い姿勢で奥を突かれて、俺はあえなく果てた。それでも宇深は止まらず、俺の都合とか関係なしに腰を振る。
「あアァあ! や、らあぁ! イッてる、う、うううぅ!」
 どくっ、どくっ、と断続的に白濁が吐き出される。腹の上に、宇深と俺の精液が混ざっていく。ぬるりとした感覚に全身が震えて、それが余計に宇深を喜ばせた。中が締まったせいで、宇深の形がくっきりと分かってしまう。更に高度を増して、中を確かめるかのように奥へ奥へと楔を打ち込んでいく。怖くて、訳が分からなくて、次から次へと涙が零れる。宇深はそんなことはお構いなしに、下腹を押しながら突き上げた。
「ひっ……!」
 ひどい違和感に、俺はさらに嗚咽を漏らした。宇深のものが入っているところを外から押されて、苦しさを覚える。
「ここまで、入ってる」
 ふにゃりと笑う顔は、俺の知っている、友達の宇深だ。だからこそ、欲しかない行為の暴力を振るいながら、いつもと同じ表情を浮かべる宇深が恐ろしくて仕方がない。こいつと自分には、こんなにも体格差があったのか。こんなにも、力の差が、あったのか。あの日、夏休み入ってすぐの、……俺の自室で感じたものが、この部屋の中にも覆いかぶさってくる。
「何なんだ、お前。俺によくしたり、ひどくしたり、何でなんだ」
 泣きじゃくりながら、怒りに似た失望をぶつける。
「何で、……!」
 俺が何を食ってもいいはずなのに。宇深も、俺の食うものについて何か執着したことなんてなかったのに。どうしてここまでされなきゃならないんだ。
「お前が好き」
 瞳に込められた情念は、その言葉以上のものが込められていた。執着、依存、独占、……分からない。もっといろいろなものが渦巻いているのは確かで、俺は何も言えなくなった。
 再び、宇深は深く刺さるような姿勢で楔を打つ。擦れ合う生々しい欲望が疼いて、俺の中に放たれていく。
「んぁあ、あぅ、うみぃ……!」
「うっ、――!」
 宇深は射精している最中に、俺の中に埋めていたものを引き抜いて、俺の腹の上に出した。混ざっていた精液に、更に宇深のものを足していく。呆然とそれを見つめていると、宇深は買ってきた蜂蜜レモンのドリンクの中身を、少量そこに垂らした。腹に落ちたものを混ぜて啜っていく。
 へそ、鼠蹊部、下腹部へと舌が這って……。いつもなら舐められるだけのものが、歯型が付くほど噛まれ、あざになるほど強く吸われた。
『ああ、食われてる……食われてる……!』
 もはや、興奮とかそういう類いの言葉で言い表せなかった。この前、バーで飲んだ酒に酔った時よりも、酩酊する感覚でぐらぐらとする。
 擬似的なものでなかったとしたら……。本当はきっと、俺の腹を割いて、内臓を全部見えるように開いて、その上で蜂蜜や精液をかけて啜られていたところだ。本当に宇深がしたいのも、きっとそういうことのはず……。無理矢理にされていた行為だったのに、どうして、全身が熱くなるくらいの喜びが湧いてしまうのだろう。
「みーくん」
 コミュニティないじゃないのに、その名前を呼んでしまった。なし崩しに、俺が食べられていく……。